米子沢と西ゼン

〜 思い募った上越の渓へ 〜




@  米子沢


【年月日】2007/11/3 (土)
【山域】上越 巻機山
【天候】晴れ一時曇り
【アプローチ】

前夜 自宅15:00==彦根IC15:55==六日町IC=巻機山登山口P22:10

【コースタイム】

登山口P6:05ー堰堤6:30ー30mナメ滝ー200mナメ 滑沢出合7:30ー 
4段30m右岸高巻きー 6m ナメ ゴーロ10m ミニすだれ 7m噴水ー
  15mすだれ ナメートユ状20mー2条10m×2(段々状2条)
  S字に曲がって2段7m  狭い壁 へつって 6m  蛇行 2段25m 
  すだれ20m10:25ー大ナメ10:55ーランチ 11:00/12/00ー12:45ちょっとgo-ro
  5m前後数本ー 幅広1m2条ー 奥の二股13:10ー避難小屋13:55ー
  巻機山14:20 /45ー P 17:40

去年から6〜7 回は計画しては、頓挫していた。
今年も10月にはいり、2週連続で決行日と予備日まで予定してメンバーに徹底していたが、敢え無く雨に流された。
その週、笛吹を歩いたメンバーはテン場の朝、沢靴が凍り付き、氷結のナメ、さらには雪化粧の山頂を体験していた。
最後のチャンスになるかも知れない、その日と翌日、晴れマークとなった。

 思い募ったとは言え、遙か500km余彼方の渓、米子沢だけで不足があるわけではないが、翌日は、西ゼンを登る計画とした。

新潟県で陸の孤島と言われていたらしい「清水」への道は、整備されていて六日町ICから30分とかからなかった。
そこから10分程度の林道走行で巻機山登山口Pに着いた。
いつものテントを設営し、そう寒くもないので外でこれもいつもの前夜宴会、きらめく星を眺めて、「遂に来たゾー」の思いが込み上げてきた。

 林道から白い岩の枯れた川にはいり、大きな堰堤のスリットを通る。
しばらくで、流れが出てきた。
青空にうろこ雲、渓の真っ直ぐ上流方向の端正な三角の山姿が巻機山だろうか。
長いと思っていたゴーロ歩きは、思いの外短く、2条の滝とS字溝状30mのナメ滝そして二俣までも飲み込むナメと最初から見応え十分で大歓迎だ。
しかも、明るく開けた左右山腹は見事に色づいている。


  堰堤のスリットを抜ける    記録にはないが素晴らしい滝
    出だしから、すごいナメ    延々、出合の上まで続く


 200mはあろうかのナメは、分かれて左の嘗ノ沢、右の本流へと続いている。
米子沢の雄大かつ明るさをあらわす序章としては十分すぎる。

ナメの先には、2段(に見える)の豪壮な滝が立ちはだかっている。4段30mの滝だ。ここは踏み跡を辿って右岸の支尾根を登る。
流れに戻り、振り向いて見る落ち口とその向こうの山並みがすがすがしい。
この先は、ちょっとゆったりゴーロ状歩きとなるが、6m、ナメ、ミニすだれ、噴水状 とあきさせることはない。


   ナメで出合う、ナメ沢     左俣のナメ沢
     本流とナメ沢     3段40mの滝  これは高巻き



 見上げると、二股の中尾根が尖って色づいている。
本流は右へ緩くカーブし、左から合わさる支流、その支流からの壁がすだれを掛けているように見える。
高さは15m位だが、幅広の垂直一枚岩を白い流れがすだれとなって落ちている。
本流中央を快適に登ると、この滝、落ち口からは見事なナメとなり、本流の左端を上へと伸びていた。

ナメの上流で両岸が立ってきており、ゴルジュ帯へとはいるが、その壁はせいぜい2〜30m位のものでこの谷の明るさは一向に変わりはしない。
左へ方向を変えて、トユ状20m、2条と段々の10m 2本、S字に曲がって2段7mは垂直だがそれぞれ直近を快適に登れ、歩けた。

 高さはないが、切り立った両岸の壁は渓を狭め、数mの滝を連続して掛けている。
壁の上部は傾斜を緩めて草と灌木の斜面となっているが、ここまで巻き上がる必要はない。
壁のバンドをヘツって進み、奥の2段25mの前に立ち、直近を巻き上がった。
そこは、大ナメ直下、20mすだれの滝前広場である。
ここで休憩して、これから展開する米子沢の大ナメにワクワクしながら一本立てた。 



    左側から落ちるスダレの滝
    トユ状  スケールがでかい       ゴルジュ  ヘツる
     右直近を登る       左直近を登る  大ナメ入口の滝


 このゴルジュの出口と言うより、大ナメの門と表した方がぴったしくるすだれの滝を直登して滝上に立った。
これはすごい〜。
あれだけ大きな期待を募らせた我々を全く裏切らないどころか圧倒的な迫力でその思いを包み込むように眼前に迫る、大ナメだ。

 ここのナメは、平面と丸みを帯びた曲線で構成されたやさしいナメではなく、荒削りな大小のウロコかスプーンカットのようなシワが一枚岩に刻まれている感じだ。
それにしても、落葉した木々と草紅葉の覆うなだらかな山肌の谷間を天に向かって伸びている様はどうだ。

いつも思うが、このスケール感は、渓を歩いてこの場に立った者にしか判りはしないだろう。
大ナメの乾いた岩盤のカウンターでプシューしたのは言うまでもない。

大ナメ帯に入ってからも、階段状の滝や角度を増したナメ滝がいいアクセントで出てくる。
ナメの幅は少し狭まったが、両岸の山腹はたおやかで底抜けに明るく、その中を直上する渓は、そのまま天まで通じているとしか思えない。
草紅葉に覆われなだらかな曲線を描く稜線、その間を蒼穹に向かって伸びる岩盤の上をサラサラと清流が落ちている。
写真を撮りながら、ゆっくりゆっくりと歩を進めた。



     以下 大ナメ 6景




 いくつかの小滝を越えると源流の様相となり、奥の二俣となった。
右俣の山頂方面は立ち入り禁止の札が立っている。
源流のせせらぎを行くと登山者の声が聞こえ、登山道への切り開きがあった。
その下の流れで渓装備を解いた。水をくみに降りてくる登山者が4人。

 大ナメを歩いてる時には、時折空を覆っていた雲は完全に消え、空が抜けた。
避難小屋から巻機山頂へと辿り、360度の眺望を楽しみ、特製コーヒーを飲みながら日向ぼっこ。
北方に大きく並んだ三山は、八海山、中ノ岳、越後駒ヶ岳、南西方向には、仙ノ倉、万太郎、谷川岳・・・
そのほかにも全方向何層にも山並みが見えていたが、残念ながらほとんど判らない。 
小屋に戻ると土曜日のこととてたくさんの登山者がおられた。
二階建てのきれいな小屋で、室内には何とバッテリーと電話まであった。

 下りは登山道を辿る。傾いた陽を浴びたダケカンバの立ち姿が美しい。
五合目からは、歩いた渓が俯瞰できた。
この周辺の北側の山腹は、細いが広大な山毛欅の純林だった。


    八海山、中ノ岳、越後駒ヶ岳      登山道から
   左俣の源流から本流を見下ろす     北斜面の山毛欅
   5合目から米小沢を望む     前 同


 登山道の標識は、ふつう○合目だが、ここは「○合目○勺」と細分化されていた。
写真を撮りながらゆっくり下っていたが、そろそろ夕闇が迫ってきた。
担ぎ上げたストックをフルに使って降りてくる帳と競争するように先を急いだが、最後はヘッデン歩行となった。
思い続けた念願が叶い、心地よい疲労感のまま車に乗り込んだ。

 さて、今回はこれでは終わらない。
渓のインターバルは汗を流して反省会とさらなる準備だ。
まずは、移動しながらGSを捜す、ちょうど開いていたところの隣が地元スーパーで買い出しもできる。

行ってみるとランドリーもあるではないか。
洗濯乾燥しながら買い出し、そしてランドリーのテーブルで装備の整理、翌日の準備を万端整えた。
暗いうちに出て暗くなってから帰るとなると、整理も準備も困るのだがこれで完璧だ。
温泉は、湯沢の岩ノ湯、400円と安い、地元の常連利用が結構いるようだ。
宴会場兼泊り場は、翌日のために林道ゲート前とした。
今夜は、わざわざ500km彼方から持ってきた 鳥野菜改め匠の味噌鍋だ。
夜の屋外でも大して寒くもなく、念願の渓歩きに祝杯を挙げ、翌日の総仕上げのスラブ歩きを夢見ながら、寝袋にくるまった。



A 西ゼン

【年月日】2007/11/4 (日)
【山域】上越 平標山(たいらっぴょう)
【天候】小雨後曇り
【コースタイム】
林道ゲートP 7:05−吊り橋ー仙ノ倉谷出合ー滝見台ー滝見コルー仙ノ倉谷出合ー吊り橋ー林道ゲートP




 そう蔵書の多くない我が町の図書館に「上信越の谷105ルート」と言う本があった。
何年も前からチラチラと頁を捲ってはいたが、高嶺の花、しかも遠すぎるとの思いが強く、詳しくは読んでいなかった。
今夏、この本を借りて夜な夜な酒のアテに机上溯行を試みた。
そうするうちに、少々無理をしてでも行ってみたくなるのは、自然の成り行きだろう。
初級で楽しい渓として選んだ候補のひとつが「西ゼン」であった。
この本には何故か「米子沢」は掲載されていない。

 予定通り、4時半に起きた。しばらくすると1台の車がやってきた。
そろそろ準備にかかろうかと思って外を見ると音もなく何と雨が落ちてきているではないか。
霧雨みたいなもので、曇り後晴れの予報からしてもひどくはならないだろう、と高をくくってテント内で腹ごしらえとする。
しばらくすると、予報とは裏腹に雨足が強くなってきた。
山の天気だからしょうがない。出発予定の6時前になっても雨は弱まらない。
   二日目だし、無理はやめとこう
   近くの山に登ろう
等いろいろ考えながら様子を見た。雨はやまない。


       西ゼン 第2スラブ 全景


 うじうじしている内に止みかけてきたが既に7時前、
    取りあえず西ゼン出合までだめなら、滝見台へ
    しかし、そこまで行ったら無理しても行ってしまうやろなぁ
と中途半端な気持ちで歩き出した。
 
 本流の左岸に沿った林道周辺は、紅葉の絶頂、歩き出して5分もしないうちに気分も高揚してきた。
吊り橋を渡って、右岸の登山道をアップダウンさせられながら行くと立派なケルンのある仙ノ倉谷に出合った。
ここからは渓を進むこととなる。西ゼン出合はまだまだだ。
雨は止んでいる。が、山腹を覆うガスは晴れそうもない。
増水してるとまでは言えないだろうが、この時期にしてはたっぷり流れている。
ここで一考。何故か気持ちがのらなかった。2人には溯行を勧めたが、結局、尾根道を辿り、滝見台でゆっくりして帰ることになった。


 尾根は、急登だった。
夫婦山毛欅で一服、その後もときおり、顕れる山毛欅の巨木に癒されながら高度を上げる。
渓が見下ろせるちょっとした岩場で早めのランチとした。
そのうちガスがあがって見通せた渓は、まだまだ核心部の下流部だった。
目の前の松の木で、怖がりもせず鳩が二羽付き合ってくれた。

 食後、空身でしばらく登ると西ゼン、東ゼンを見下ろせるコルがあった。
ガスも晴れてきて仙ノ倉、平標の頂上もときおり顔を見せる。
その周辺で、歩けなかった渓を目で辿る。
東ゼン出合のナメ、第1スラブ、第2スラブ等ほとんど全景が俯瞰でき、今からでもこのヤブ斜面を転がり落ちて歩きたい気分に駆られた。
間近に見ただけでも十分満足、と言うことにしておこう。

    第1スラブ


平標山への単独の登山者2名に出合った。1名の方は、30年程前に西ゼンを歩き、周辺での山スキーに詳しく話が弾んだ。

 帰りの尾根で山毛欅の枯れ木にびっしり付いた食毒不明のキノコを相棒が採取した。
   「そんなもん、食えへんで」「訓練や思て背負ってったらええわ」
来た道を戻り、ヘッデン歩行は避けられたが、真っ暗な林道を車で宿へと向かった。

       カワムキ      帰りの高速から


 さて、3泊目ともなると、布団が恋しい、と言うわけでもないが、今夜は、春に火打で出会った新潟山人の大御所に紹介された清水の民宿「やまご」に泊まった。
山菜三昧の夕食、しかも持ち帰ったキノコは「カワムキ」と言って食用で早速料理してくださり、山の幸を存分にいただいたのだった。

 「米子を歩けたら 120点、西ゼンも行けたら300点や」 との事前自己評価、
現実には、西ゼンは見ただけ、だったが、いろんな意味で 200点以上の山行だった。
もちろん100点満点として。   




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